【壱】

昨年の秋、箱根のとある山林で牧野洵子(じゅんこ)という名の娘が死体で発見された。

 

彼女は何者かに慰まれ、穢された後、絶望のまま自ら首をくくって死んだとされている。

 

帝都で探偵業に身を置く「史絵」(ふみえ)は、稼業の師でもある同業者の八神から、この事件を譲り受けた。

 

死んだ娘は史絵の高等女学校時代のクラスメートだった。

 

自殺としては不可解な警察の調書。

洵子は何故箱根に独り、身を置いていたのか。

そして洵子の身に何が起こったのかを、

史絵は知らねばならなかった。

 

史絵は調査の足場として箱根にある本家の別荘を訪ねる。

 

避暑中の当主と繁(しげる)と靜(しずか)という対照的な息子二人の他に、そこにはミランダという史絵とは面識のない英国女性が当主の情婦として過ごしていた。