【参】
「……大変な不躾とは思ったのですけれど」
やや唐突に家を訪ねて来た事を、彼女はそのように詫びた。父も私も別段差し支えの無かった旨を返すと、雪乃さんはその訳を話した。
「いえ、昨日八神さんの処へ寄って見ましたら、貴女のお話が出ていたものですから…」
そこで雪乃さんは、ふと今私の受け持つ仕事に興味を持ったらしい。
八神氏もこの人に話す分には何の問題も無いと思ったのだろうか、ともあれそのあらましを知った上でやって来たのだという事だった。
「…余計な事だとは思いましたけれど、聞いて見れば知った名前が出てくるではありませんの。その様な類の話なら、先ずこのわたくしに問えばよいものを、全くあの人は…」
そう言って拗ねたような顔を見せる様子を言葉もなく眺めていると、彼女ははたと自分の素振りに気付いた風にして、少し頬を赤らめた。
「いえ、ですから……それならそれでわたくしがまた出過ぎた真似をするとでも思ったのですわ、きっとあの人は」
その様な事を言うこの人と八神氏の間柄にまた一つ興味を抱かされつつも……私は自分にとっての本題が気掛かりでならなかった。
「…それで、貴女がご存知とおっしゃる人物とは…」
●篠瀬 雪乃(しのせ ゆきの) [財閥令嬢] 声:ヒマリ
新宿界隈で興信所を開いている男、八神が彼の知り合いとして史絵に紹介した娘。現在の境遇が近い史絵に相談を求める相手となる